日本のIPO市場 2025年の実績と2026年の足元

要点
- 2025年の一般市場IPOは66社(前年86社)。うち東証グロースは41社(前年64社)。上場廃止は125社で2年連続の過去最多となり、東証の上場会社数は2024年末の3,975社から2025年末の3,945社へ純減した
- 公開価格ベースの時価総額の中央値は一般市場で91億円(前年64億円)、グロース市場で102億円(前年58億円)へ上昇。初値騰落率の平均は+39%、公開価格割れは10社・約15%(前年19社・約22%)と、小粒な上場が減り市場の選別が進んだ
- 東証グロースの上場維持基準は「上場10年経過後に時価総額40億円」から「上場5年経過後に100億円」へ。適用は2030年3月1日以後だが、2025年12月末以後にグロースへ新規上場申請する会社は、想定時価総額100億円未満なら成長戦略の開示が求められる。過去の実証では小型上場企業が5年で100億円に到達した割合は31%
- Big4のIPO監査シェアは57%(2023年)→50%(2024年)→45.5%(2025年)と3期連続で低下。主幹事証券は2025年上期の10社から2026年上期の6社へ。担い手の確保が上場適格性以前の関門になっている
- TOKYO PRO Marketは2025年に46社と、初めてグロース市場(41社)を上回った。スタートアップのエグジットは件数ベースでM&AがIPOの7.5倍(2025年)
1. 数字で見る2025年。IPOは66社、上場廃止は125社
IPOの社数は集計主体によって定義が異なります。本レポートでは、大手監査法人の集計で標準的な「一般市場(全取引所、TOKYO PRO Marketを除く)」を主系列とし、TOKYO PRO Market(TPM)は別建てで示します。
| 年 | 一般市場 | 東証グロース | TOKYO PRO Market |
|---|---|---|---|
| 2021年 | 125社 | 93社(マザーズ) | 13社 |
| 2022年 | 91社 | 60社(4月以降) | 21社 |
| 2023年 | 96社 | 65社 | 32社 |
| 2024年 | 86社 | 63社 | 50社 |
| 2025年 | 66社 | 41社(うちTPMからのステップアップ1社) | 46社 |
| 2026年1〜8月 | 22社(東証のみ) | 15社 | 33社 |
2025年の市場別内訳は、東証プライム7社、スタンダード12社、グロース41社、名証・福証・札証の地方市場6社です。業種では情報・通信業21社とサービス業18社で全体の59%を占め、この構成比は例年ほぼ変わりません。
一方、2025年の東証(TPM除く)の上場廃止会社数は125社で、2年連続で過去最多を更新しました。新規上場66社に対し廃止125社という純減構造です。
2026年は上半期(1〜6月)の一般市場IPOが17社で、前年同期の28社から39.3%減少し、2012年上半期以来初めて20社を下回りました。日本取引所グループの統計では1〜8月の東証一般市場は22社(プライム0、スタンダード7、グロース15)、TPMは33社です。日本経済新聞は2025年12月時点で2026年通年を65社程度と見込んでいます。
2. 減ったのは小粒な上場。市場が選別を始めた
件数の減少と対照的に、1件あたりの規模は大きくなっています。
| 項目 | 2025年 | 2024年 |
|---|---|---|
| 公開価格ベース時価総額の中央値(一般市場) | 91億円 | 64億円 |
| 同(グロース市場) | 102億円 | 58億円 |
| 発行総額50億円未満の比率 | 69% | 69%より高い |
| 発行総額100億円超 | 12社 | 12社 |
| 初値騰落率の平均 | +39% | +31% |
| 公開価格割れ | 10社(約15%) | 19社(約22%) |
| 上場直前期が当期純損失(赤字上場) | 10社(15.1%) | 21社 |
| 東証一般市場のファイナンス総額 | 約1兆3,000億円 | 約9,700億円 |
経済産業省のスタートアップ政策推進分科会資料(2026年2月)も、グロース市場ベースでIPO数が64社(2024年)から41社(2025年)へ減る一方、初値時価総額の中央値は88億円から135億円へ、新規上場時のファイナンス規模の中央値は15億円から31億円へ上昇したとしています。
ただし小型IPOの初値は依然として跳ねます。2025年上半期にグロース市場へ上場した18社のうち公開価格ベース時価総額100億円未満の11社は全社が初値で公開価格を上回り、平均初値騰落率は173.1%でした。上場時の需給と、上場後に時価総額100億円へ届くかどうかの実力は別物です。この乖離が次章の基準見直しの背景にあります。
3. 制度が変わった。東証グロース「上場5年で時価総額100億円」
東京証券取引所は2025年9月26日、グロース市場の上場維持基準の見直しを公表しました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 現行基準 | 上場10年経過後 時価総額40億円以上 |
| 新基準 | 上場5年経過後 時価総額100億円以上 |
| 適用開始 | 2030年3月1日以後、最初に到来する事業年度の末日から |
| 不適合時 | 3か月以内に適合計画を開示 → 1年間の改善期間 → 不適合なら監理銘柄・整理銘柄指定を経て上場廃止。追加期間を設けて適合を目指す計画を開示した場合は計画期間中は上場を維持できるが、見直し前の基準(40億円)にも不適合となれば速やかに上場廃止 |
| 時価総額の算定 | 事業年度末日以前3か月間の日々の最終価格の平均 × 事業年度末日の上場株券等の数 |
上場準備企業にとって重要なのは、2030年を待たずに効力を持つ2つの変更です。
| 変更 | 内容 | 適用時期 |
|---|---|---|
| 新規上場申請会社への開示要請 | グロース市場への新規上場申請で、上場時に見込まれる時価総額が100億円未満の場合、「事業計画及び成長可能性に関する事項」に見直し後の基準への適合を意識した成長戦略を記載する。定量的な財務予測の開示までは求めない | 2025年12月末日以後に新規上場申請を行う会社から |
| スタンダード市場への市場区分変更基準の緩和 | 利益の額に関する形式要件(最近1年間の利益1億円以上)を適用しない。「利益の額を捻出するために成長投資を抑制することがないよう」との趣旨 | 2025年12月を目途に施行 |
影響の規模を見ます。日本経済新聞によれば、グロース市場約600社のうち時価総額100億円未満は2026年1〜3月平均で約370社・約6割です。東洋経済オンラインは2025年5月時点で、新基準が即時適用された場合に退出を迫られる企業を201社と試算しています。スピーダ スタートアップ情報リサーチが1999〜2020年に公募時価総額100億円未満で上場した377社を追跡した実証では、上場5年後に時価総額100億円へ到達したのは118社・31%にとどまり、分岐点は上場後2年でした。到達に必要な年平均成長率は売上高26%、営業損益32%と示されています。
東証は見直しの根拠として、プライム市場の経過措置における実績も示しています。適合計画の期間が3年以内の会社は時価総額が平均でプラスとなった一方、3年超の会社は市場平均を下回り、「長い期間の計画を開示した上場会社は、投資者から評価されず株価が下落」したとしています。
4. 準備企業のボトルネックは制度より担い手
上場審査以前の関門として、監査法人と主幹事証券の確保が難しくなっています。
| 年 | Big4のIPO監査シェア | 準大手 | 中小 |
|---|---|---|---|
| 2023年 | 57.3%(55社) | 26.0%(25社) | 16.7%(16社) |
| 2024年 | 50.0%(43社) | 26.7%(23社) | 23.3%(20社) |
| 2025年 | 45.5%(30社) | 18.2%(12社) | 約36% |
Big4のシェアは3期連続で低下し、準大手・中小監査法人が受け皿になっています。2026年上期はBig4が4社(母数17社)で、太陽有限責任監査法人の4社がトップでした。グロース市場のIPO監査報酬は2024年で平均2,186万円、中央値1,750万円です。
主幹事証券も絞られています。主幹事を務めた証券会社は2025年上期の10社から2026年上期の6社(野村5、SBI 5、岡三3、SMBC日興2、大和1、みずほ1)に減り、アイザワ証券は2025年2月に引受業務の取り止めを公表しました。グロース上場のうち想定時価総額100億円未満の会社は2025年上期で18社中11社、2026年上期で11社中6社と依然として過半を占めており、主幹事証券が小型案件の引受けに慎重になれば、上場の入口はさらに狭まります。
金融庁が2019〜2020年に開催した「株式新規上場(IPO)に係る監査事務所の選任等に関する連絡協議会」の資料には、監査事務所の探索に「半年〜1年」を要するとの実務者の証言があります。同じ資料で、中小監査事務所へのアンケートではIPO監査の受嘱意向が回答36事務所すべて(100%)にあった一方、過去3年内に問い合わせを受けた経験があるのは67%にとどまりました。「引き受け手がいない」のではなく「たどり着けていない」構造が、6年前の時点で指摘されていたことになります。日本公認会計士協会はこれを受けて「IPOを目指す企業の監査の担い手となる中小監査事務所リスト」を公表しています。
5. 出口の再設計。TPM、市場区分変更、そしてM&A
上場需要そのものは消えていません。TOKYO PRO Marketの新規上場は2021年の13社から2025年の46社へ増え、2025年は初めてグロース市場の41社を上回りました。2026年も1〜8月で33社と高水準です。TPMから一般市場へのステップアップ上場は累計17社(2025年12月時点)で、2025年は4社でした。TPMの上場会社数は2022年末の64社から2025年末の163社へ3年で約2.5倍になっています。
スタートアップのエグジットは、件数ベースでM&Aが主流になっています。産業革新投資機構(JIC)の「スタートアップ・ファイナンス市場レビュー」によれば、2025年のVC出資先スタートアップのIPOは31件、M&A(被買収・子会社化・主要株式取得・事業譲渡)は232件で、M&AはIPOの7.5倍でした。この倍率は2015年の約2倍から一貫して拡大しています。一方、JETROがPitchBookデータをもとにまとめた国際比較では、件数ベースで日本のM&A比率が上がっているものの、金額ベースでは日本ではなおIPOがM&Aを上回るとされています。件数の主流はM&Aへ移ったが金額の重心はまだIPOにあり、そのIPOの門が狭くなっている、というのが2025〜2026年の構図です。
実務への示唆
- 想定時価総額100億円未満でグロース市場を目指す会社は、2025年12月末以後の申請から「見直し後の基準への適合を意識した成長戦略」の開示が必要です。上場5年後に100億円へ到達する事業計画と、その前提となるKPIを上場準備の初期から設計してください
- 上場後2年が分岐点です。上場時の初値ではなく、上場2年目以降の業績予想達成率を維持できる管理会計と予算統制を、N-2期までに整えてください
- 監査法人の選任はN-3期からN-2期首に着手し、Big4に限らず準大手・中小監査法人を含めて候補を広げてください。日本公認会計士協会の中小監査事務所リストは出発点になります
- 主幹事証券の引受方針は小型案件に対して慎重化しています。TOKYO PRO Marketを経由するステップアップ、スタンダード市場の利益要件撤廃を踏まえた市場選択、M&Aによるエグジットを、IPOと並列の選択肢として資本政策に織り込んでください
- 東証グロースの既上場企業で時価総額100億円未満の会社は、2030年3月以後の事業年度末までに到達する計画が必要です。適合計画は3年以内で組むことが、東証の経過措置データからも合理的です
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当社は、上場準備の全体設計(現状診断、ロードマップ、監査法人・主幹事証券の選定支援)、成長可能性に関する説明資料の作成支援、株価算定と資本政策の設計、M&Aやステップアップ上場を含む出口戦略の比較検討をご支援します。IPO・TPM・M&Aのいずれを選ぶ場合も、監査法人や主幹事証券が何を見るかを踏まえて会社側の体制を組み立てます。詳細はサービスをご覧ください。
出典
- 日本取引所グループ「最近のIPOの状況」(2021〜2026年)2026年9月1日更新 https://www.jpx.co.jp/equities/listing-on-tse/new/basic/04.html
- 日本取引所グループ「上場会社数の推移」 https://www.jpx.co.jp/listing/co/tvdivq0000004xgb-att/tvdivq0000017jt9.pdf
- 東京証券取引所 上場部「グロース市場の上場維持基準の見直し等の概要」2025年9月26日 https://www.jpx.co.jp/equities/follow-up/mklp770000007pzz-att/t13vrt000000c1r3.pdf
- デロイト トーマツ「2025年IPO市場の動向」2026年2月20日 https://www.deloitte.com/jp/ja/services/audit-assurance/perspectives/ipo-trends2025.html
- EY新日本有限責任監査法人「2025年IPOの振り返りと2026年以降のIPOの動向(前編)」2026年2月20日 https://www.ey.com/ja_jp/insights/ipo/ipo-2025-review
- EY新日本有限責任監査法人 同(後編)2026年3月24日 https://www.ey.com/ja_jp/insights/ipo/ipo-2026-trend
- Grant Thornton Japan「2025年IPO市場の総括と2026年の展望」2026年4月3日 https://www.grantthornton.jp/insight/newsletter/ceo-mr/202604/
- IR Robotics「2025年IPO総まとめ」2026年1月30日 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000213.000054393.html
- 日本M&Aセンター「2025年TOKYO PRO Market市場総括」2025年12月23日 https://www.nihon-ma.co.jp/tokyopromarket/column/tokyopromarket2025_2
- OBC「IPO 2025年上半期の総括と今後の展望」2025年8月22日(2026年8月3日更新)https://www.obc.co.jp/special/ipo/column/list/132
- OBC「IPO 2026年上半期の総括」2026年8月3日 https://www.obc.co.jp/special/ipo/column/list/159
- 日本経済新聞「東証グロース改革1年、時価総額『100億円未達』6割の370社 滞留多く」2026年6月6日 https://www.nikkei.com/article/DGXZQODL202K80Q6A420C2000000/
- 日本経済新聞「26年のIPO、65社程度で25年と同水準か」2025年12月 https://www.nikkei.com/nkd/company/article/?DisplayType=1&ng=DGXZQOFL260Q70W5A221C2000000&scode=4344&ba=1
- 東洋経済オンライン「東証グロースに適用される『上場5年経過後に時価総額100億円』の関門」2025年5月17日 https://toyokeizai.net/articles/-/878240
- スピーダ スタートアップ情報リサーチ「上場2年目で分かれる『時価総額100億円』の明暗」2025年11月21日 https://initial.inc/articles/growth-market-post-ipo
- JMSC「【2025年版】IPO監査を担当した監査法人調査」 https://www.jmsc.co.jp/kaikeishi/topics/12591.html
- 金融庁「株式新規上場(IPO)に係る監査事務所の選任等に関する連絡協議会」第2回議事要旨 2020年2月14日 https://www.fsa.go.jp/singi/kansaninkyougikai/siryou/200214.html
- 日本公認会計士協会「IPOを目指す企業の監査の担い手となる中小監査事務所リスト」 https://jicpa.or.jp/business/ipokansa/list.html
- 産業革新投資機構(JIC)「スタートアップ・ファイナンス市場レビュー 2025年通年版」2026年4月6日 https://cdn.prod.website-files.com/699cba437b4e7de2649d32c0/69dc71af3a78cf7413fad9e2_20260406_JIC_Research_VC.pdf
- 経済産業省「第1回スタートアップ政策推進分科会 資料3」2026年2月4日 https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/nipponseichosenryaku/startup/dai1/shiryou3.pdf
本レポートは公開情報をもとにした一般的な情報提供であり、個別の会計・税務・法務上の助言ではありません。記載の数値は参照時点のものです。
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