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四半期報告書廃止から2年、決算開示は早くなったか

制度・規制 読了 13分 はてなベースアドバイザリー株式会社

2024年4月1日、金融商品取引法上の四半期報告書制度が廃止され、第1・第3四半期の開示は取引所規則に基づく四半期決算短信に一本化されました。制度の目的は企業負担の軽減です。それから2年、決算開示の実務はどう変わったのか。日本取引所グループの決算発表状況の集計、金融庁の有価証券報告書レビュー調査(3月期決算会社2,478社の悉皆調査)、経済産業研究所の実証データを突き合わせると、制度の緩和と実務の負担が別方向に動いていることが見えてきます。本レポートは、上場準備企業と上場後間もない企業の経理財務責任者が、開示体制をどこまで前倒しで設計すべきかを判断するための材料を提供します。

要点

  • 通期決算短信の平均所要日数は2024年3月期40.3日、2025年3月期40.7日、2026年3月期41.3日と3期連続で遅くなった。2017年3月期の39.3日から9年で2.0日の悪化。決算期末後30日以内に開示する会社は約10%で横ばい、78.3%が40日超45日以内のゾーンに集中している
  • 第1・第3四半期の監査法人レビューは任意化されたが、任意レビューの実施率は23.7%(2024年6月末終了四半期)→23.0%(同12月末終了四半期)で高止まり。時価総額1兆円以上のプライム企業では40.2%が自主的に継続している。四半期決算短信の所要日数は前年同四半期比で+0.4日、+0.9日と、早期化には結びついていない
  • 有価証券報告書の株主総会前開示は、金融担当大臣の要請(2025年3月)を受け、2025年3月期に57.7%(前期1.8%)へ急増。ただし843社が総会1日前に集中し、金融庁が最も望ましいとする3週間以上前は1社のみ。2026年3月期は全体77%、プライム90%程度の見込み
  • 総会前開示を「当面実施予定なし」とした企業の理由は、監査法人との調整が困難27%、社内リソース不足・体制未整備21%、社内調整(スケジュール短縮・取締役会日程)21%。上位3つで69%を占め、いずれも様式や法令ではなくオペレーション設計の問題

1. 四半期報告書は廃止された。何が減り、何が残ったか

2023年11月に成立した改正金融商品取引法により、2024年4月1日以後、第1・第3四半期の法定開示義務が廃止されました。正確には「四半期開示がなくなった」のではなく、次のように整理されます。

区分 改正後の取扱い
第1・第3四半期 金商法上の四半期報告書を廃止し、取引所規則に基づく四半期決算短信に一本化。監査法人のレビューは原則として任意
第2四半期 四半期報告書に代えて半期報告書を提出。中間会計期間末日後45日以内。監査法人のレビューは従来どおり必要
四半期決算短信の記載 サマリー情報、経営成績等の概況、四半期財務諸表等(連結貸借対照表・損益計算書、セグメント情報等の注記)は記載義務。四半期連結キャッシュ・フロー計算書は省略可
レビューの義務化 直近の監査意見が無限定適正以外、内部統制報告書に開示すべき重要な不備がある、有報・半期報告書が期限内に未提出、などの場合はレビューが義務
レビューの有無の開示 四半期決算短信のサマリー情報に「有(義務)」「有(任意)」「無」を記載。レビュー完了前に開示し、完了後に再開示する「二段階開示」も可能

廃止で消えたのは、レビュー付きの四半期報告書という法定書類です。経済産業研究所が2011年に上場企業923社を対象に行った調査では、四半期報告制度の法定化によって決算作成プロセスの所要時間は法定化前の平均2.3倍(中央値2.0倍)に増え、その増加分のうち63.6%が監査法人対応でした。廃止で解放されるはずだったのは、まさにこのコストです。

2. しかし決算は早くなっていない

東京証券取引所は毎年6月、3月期決算会社の決算発表状況を集計しています。通期決算短信の平均所要日数は次のとおりです。

決算期 集計対象 平均所要日数
2017年3月期 2,345社 39.3日
2023年3月期 2,280社 40.2日
2024年3月期 2,259社 40.3日
2025年3月期 2,231社 40.7日
2026年3月期 2,147社 41.3日

四半期報告書が廃止された2024年4月以後も、傾向は反転していません。2026年3月期の分布を見ると、東証が「より望ましい」とする決算期末後30日以内に開示した会社は10.2%、40日超45日以内が78.3%、45日超は1.2%です。45日ルールはほぼ全社が守っている一方、期限の直前に張り付く構造になっています。決算発表は5月14日の1日に473社(約22%)が集中しました。

四半期決算短信についても、東証の集計は同じ方向を示しています。

対象四半期 四半期決算短信の所要日数 前年同四半期の短信 前年同四半期の四半期報告書
2024年6月末終了 37.0日 36.7日(+0.4日) 40.6日
2024年12月末終了 38.8日 37.9日(+0.9日) 42.2日

四半期報告書(40.6〜42.2日)が廃止され短信(37.0〜38.8日)に一本化されたことで、四半期情報が投資家に届く最終タイミングは3〜4日早まりました。しかし短信そのものの所要日数は前年同四半期比で増えています。所要日数の悪化を四半期廃止だけに帰属させることはできません。この間にサステナビリティ開示の拡充、有報の総会前開示対応、内部統制報告制度の改訂が重なっています。事実に忠実な言い方は「四半期廃止をもってしても、遅くなる流れは止まらなかった」です。

制度設計の段階から、企業側はこの結果を予見していました。関西経済連合会の緊急アンケート(2022年10月、78社回答)では53.8%が四半期決算短信の義務そのものの廃止を求め、東証のパブリックコメントには「上場会社の負担軽減はきわめて限定的なものとなると予想される」との指摘が寄せられていました。

3. 任意化した監査レビューを、企業はどう判断したか

区分 2024年6月末終了四半期(2,438社) 2024年12月末終了四半期(2,417社)
レビューなし 1,837社・75.3% 1,827社・75.6%
任意レビューあり 577社・23.7% 555社・23.0%
義務レビューあり 24社・1.0% 35社・1.4%
二段階開示を採用 62社(任意レビュー会社の10.7%) 68社(同12.3%)

任意レビューの実施率は市場と規模で差があります。プライム27.3%、スタンダード20.9%、グロース17.5%。プライム市場の時価総額1兆円以上では40.2%が自主的にレビューを継続しています。二段階開示を採用した会社は1回目を31.4日で開示し、レビュー報告書付きの2回目を38.9日で出しています(2024年6月末終了四半期)。四半期連結キャッシュ・フロー計算書の開示は全体の1割台半ばにとどまり、IFRS任意適用会社では11.7%が開示を取りやめました。

大企業ほど負担を手放していない構造です。レビューを継続する会社では、第1章で示した「監査法人対応」のコストは残ります。

4. 一方で総会前開示は1年で1.8%から57.7%へ

四半期の負担軽減が「任意」で動かなかったのに対し、有価証券報告書の株主総会前開示は動きました。金融担当大臣が2025年3月28日に全上場企業へ要請を発出し、金融庁は「株主総会の3週間以上前」が最も望ましいとしています。

区分 2025年3月期の総会前開示 割合
3月期決算会社 全体 1,310社 / 2,269社 57.7%(前期1.8%)
プライム 776社 / 1,115社 69.6%
スタンダード 435社 / 922社 47.2%
グロース 73社 / 178社 41.0%

ただし内訳を見ると、総会前開示会社1,310社のうち843社(64.4%)が総会の1日前に集中し、3週間以上前に開示したのは1社だけでした。形式的には要請に応えていますが、株主の議案検討時間の確保という目的にはまだ距離があります。金融庁の有価証券報告書レビューによれば、2026年3月期は全体で77%程度、プライム市場では90%程度が総会前開示を行う見込みです。

会社法との関係でも動きがあります。法制審議会の中間試案(2026年4〜5月パブリックコメント)では、事業報告等の開示事項をすべて記載した有価証券報告書を提出した場合に事業報告等の作成を不要とする「開示書類の一本化」が示され、2026年度中に要綱案が取りまとめられる予定です。金融審議会では、見直し後の有報の記載様式の適用を2028年3月期からとする論点が提示されています。

5. できない理由は制度ではなくオペレーション

金融庁は2025年3月期決算の有価証券報告書提出会社2,478社(うち上場2,249社)を対象に、総会前開示の実施状況と理由を調査しています。「当面実施予定なし」と回答した会社の理由は次のとおりです。

理由 会社数 割合
監査法人との調整が困難 21社 27%
社内リソース不足・社内体制未整備 16社 21%
社内調整が困難(スケジュール短縮・取締役会日程) 16社 21%
検討中・未定 15社 19%
数日前の総会前開示にメリットを感じない・投資家要請がない 5社 6%
その他 5社 6%

上位3つで69%を占め、いずれも様式や法令ではなく、外部監査人とのスケジュール調整、社内の人的リソースと体制、意思決定プロセス(取締役会日程)というオペレーション設計の問題に集約されます。

逆に、総会前開示を実現した企業の対応も同じ調査で示されています。

  • 契機は社長・社外取締役など経営陣からの指示であることが多い。複数部署の業務プロセスに影響するため、現場主導では実現しにくい
  • ディスクロージャー支援会社のシステム活用や、社外への一部業務のアウトソーシングで有報作成プロセスを効率化
  • 有報の記載内容を「定性情報」と「定量情報」に分け、戦略やサステナビリティ目標などの定性情報は12月頃から金融庁の好事例集を確認して方針を決め、3月までに取締役が確認し、4月には定量情報を入力するだけの状態にしておく

四半期報告書の廃止は「監査人レビューを伴う書類を1年に2本減らす」改正でしたが、決算を早くするのは書類の数ではなく、締めから開示までの工程設計と、監査法人との日程設計だということが、廃止後2年のデータから読み取れます。

実務への示唆

上場後に求められる開示期限は、通期決算短信が決算期末後45日以内(30日以内がより望ましい)、第1・第3四半期決算短信が各四半期終了後45日以内、半期報告書が中間期末後45日以内、有価証券報告書が事業年度経過後3か月以内です。3月期決算会社では5月中旬に決算短信、5月下旬に計算書類の取締役会承認、6月に有報作成と株主総会が重なります。

  • 既上場会社の78.3%が40日超45日以内に集中している事実は、多くの会社に余裕がないことを示しています。上場準備段階で月次決算を翌月10営業日前後で締める体制を作ることが、上場後の45日ルールを安定して守る前提になります
  • 2026年3月期にプライム市場の約90%が総会前開示を行う見込みであることを踏まえると、新規上場会社も早晩、有報を総会前に出す水準を求められます。上場準備で見るべき水準は45日ではなく、総会前開示まで含めた開示体制になりつつあります
  • 決算早期化は経理部門だけでは実現しません。経営層の意思決定、監査法人との年間スケジュールの合意、取締役会日程の前倒しを同時に設計してください
  • 有報の定性情報(事業の状況、リスク、サステナビリティ、ガバナンス)は決算が固まる前に書けます。期中に固めて、期末後は定量情報の流し込みだけにする工程が、実現企業の共通項です
  • 第1・第3四半期のレビューを受けるかどうかは、投資家構成と監査法人の負荷を踏まえて決めてください。受けない場合でも、決算チェックリストとレビュー体制を社内に持つことが、内部統制報告制度上も必要です

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出典

  1. 金融庁 企業開示課「四半期レビュー基準の期中レビュー基準への改訂等」(『企業会計』2024年6月号)https://www.fsa.go.jp/frtc/kikou/2024/20240601_kigyoukaikei.pdf
  2. 東京証券取引所「決算短信・四半期決算短信 作成要領等」2026年7月版 https://www.jpx.co.jp/equities/listed-co/format/summary/tvdivq0000004wuh-att/t13vrt0000010n9j.pdf
  3. 東京証券取引所「2026年3月期決算発表状況の集計結果」2026年6月4日 https://www.jpx.co.jp/news/1023/t13vrt000001ewde-att/t13vrt000001ewg9.pdf
  4. 東京証券取引所「2025年3月期決算発表状況の集計結果」2025年6月5日 https://www.jpx.co.jp/news/1023/um3qrc000001k00d-att/um3qrc000001k036.pdf
  5. 東京証券取引所「2024年3月期決算発表状況の集計結果」2024年6月 https://www.jpx.co.jp/news/1023/mklp770000008ipy-att/mklp770000008isj.pdf
  6. 東京証券取引所「平成29年3月期決算発表状況の集計結果」2017年6月 https://www.jpx.co.jp/news/1023/nlsgeu000002hqpz-att/nlsgeu000002hqsm.pdf
  7. 東京証券取引所「四半期開示の見直し後の四半期決算短信の開示動向」2024年9月5日 https://www.jpx.co.jp/equities/improvements/quarterly-disclosure/cg27su0000006epy-att/mklp77000000g4ab.pdf
  8. 東京証券取引所「第1・第3四半期決算短信におけるレビューの状況」2025年3月12日 https://www.jpx.co.jp/equities/improvements/quarterly-disclosure/cg27su0000006epy-att/um3qrc000000yhyq.pdf
  9. 金融庁「株主総会前の適切な情報提供について(要請)」2025年3月28日 https://www.fsa.go.jp/news/r6/sonota/20250328-2/20250328-2.html
  10. 金融庁「2025年3月期に係る総会前開示の状況」2025年6月末時点集計 https://www.fsa.go.jp/policy/kaiji/sokaimaekaiji_202503.pdf
  11. 金融庁「総会前開示に関する有価証券報告書レビューにおける調査結果」2026年2月20日 https://www.fsa.go.jp/policy/kaiji/sokaimaekaiji_review.pdf
  12. 金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ 事務局説明資料 2026年5月18日 https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/disclosure_wg/shiryou/20260518/01.pdf
  13. 金融庁「上場会社における有価証券報告書の総会前開示に係る取組の好事例」 https://www.fsa.go.jp/policy/kaiji/sokaimaekaiji_kojirei.pdf
  14. 経済産業研究所 ディスカッションペーパー11-J-017「企業情報開示システムの最適設計」2011年 https://www.rieti.go.jp/jp/publications/dp/11j017.pdf
  15. 関西経済連合会「四半期開示のあり方」緊急アンケート調査結果 2022年10月20日 https://www.kankeiren.or.jp/material/221020houkokusho.pdf
  16. 東京証券取引所 パブリックコメント結果(四半期開示の見直し)2024年3月 https://www.jpx.co.jp/rules-participants/public-comment/detail/d1/20231218-01.html
  17. KPMG「上場準備ベーシック論点解説シリーズ 第3回 IPOにおける決算早期化」2025年1月 https://kpmg.com/jp/ja/home/insights/2025/01/ipo-basic-series-ipo-fastclosing.html

本レポートは公開情報をもとにした一般的な情報提供であり、個別の会計・税務・法務上の助言ではありません。記載の数値は参照時点のものです。

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